大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所 昭和48年(ワ)71号 判決

原告

井上武雄

被告

渡辺長三郎

主文

被告は、原告に対して、金三七万円とこれに対する昭和四八年六月七日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

原告は、「被告は、原告に対して、金三七万円とこれに対する昭和四八年五月一二日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

原告は、住宅建築の目的で、昭和四八年二月二六日、被告から同人所有の山口市大字宮野下字中二段地五八〇番田五九五平方メートルおよび同所五八四番田五五二平方メートルを、代金三七七万六、〇〇〇円で買い受け、同日、手付金三七万円を被告に支払つた。ところが、右二筆の土地の間に官有地の水路があり、右両地に跨つて家屋を建築することができないことがわかつたので、原告は、被告に対して、昭和四八年四月二七日、内容証明郵便で右売買契約を解除し、右書面到達の日から二週間以内に手付金三七万円の返還を求める旨の意思表示をし、右意思表示は、同日、被告に到達した。

けれども、被告は、右金員の支払をしない。

そこで、原告は、被告に対して、右金三七万円とこれに対する期限後の昭和四八年五月一二日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴請求に及んだのである。

被告は、請求棄却の判決を求め、答弁として次のように述べた。

原告主張の請求原因事実の全部を否認する。

被告は、原告との間で本件売買契約をなしたものではなく、訴外井上節美との間で本件売買契約をなしたものである。

従つて、原告の本訴請求は失当である。

証拠〈略〉

理由

〈証拠〉によれば、原告が、住宅建築の目的で、岡藤甲司の紹介により、昭和四八年二月二六日、被告から同人所有の山口市大字宮野下字中二段地五八〇番の一、三、四田五九五平方メートル(六畝歩)および同所五八四番の一、二田五五二平方メートル(五畝一七歩)を、右地上建物とともに、代金三七七万六、〇〇〇円で買い受け、同日、手付金三七万円を被告に交付し、同年三月一〇日までに残金三四〇万六、〇〇〇円を支払うことを約したことが認められる。成立に争いのない乙第一号証の売買契約書には、右売買契約の買主が井上節美である旨の記載がなされているけれども、前示証人の証言、原告本人尋問の結果によれば、原告が自ら被告と右売買の交渉をし、自己の資金で買い受けたのであるが、同時に、右土地の所有権を息子の節美に移転し、そのことを明らかにするため、売買契約書に右のような記載をなしたものであることが認められるから、乙第一号証の右のような記載だけからさきの認定を左右するには足らず、他に右の認定を動かずに足りる証拠はない。

ところで、〈証拠〉を総合すれば、原告は、右売買契約の際、前記五八四番の二と五八〇番の三の土地の中間の地下約五〇センチメートルのところに幅約五〇センチメートルの水路のあることや、かつて、山口市役所で右水路の土管を埋設したことは知つていたけれども、右水路の敷地が官有地であることまでは知らなかつたこと、右売買契約の後になつて、はじめて、右水路の敷地が官有地であり、右両地に跨つて住宅を建築することはできない状態にあることがわかつたこと、しかし、原告としては、若し、そのような状態にあることがあらかじめわかつていたならば、最初から本件土地を買い受けることはなかつたこと、もつとも、右官有地については払下げを受けられることもあるが、本件では、被告自らその払下げ手続をしないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

このような場合には、売主たる被告に民法第五六三条による担保責任を負わせ、原告において右売買契約の解除をなし得るものと解するのを相当とする。

原告は、昭和四八年四月二七日、被告に対して、右売買契約解除の意思表示をしたと主張するが、これを認め得る証拠はない。しかし、記録によれば、本件支払命令が被告に送達された昭和四八年六月六日に右契約解除の意思表示がなされたものと解し得るから、本件売買契約は、同日限り、解除の効力を生じたものというべく、右契約解除により、被告は、原状回復として授受ずみの手付金三七万円を原告に返還する義務があるといわなければならない。

従つて、原告の本訴請求は、被告に対して、右手付金三七万円とこれに対する本件契約の日の翌日である昭和四八年六月七日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容すべく、その余は失当であるから棄却しなければならない。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。 (濱田治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例